東京医科大学八王子医療センター 脳神経外科 | 脳神経血管内治療

脳神経血管内治療

脳や首、脊髄の血管疾患を切らずに治す新しい治療法で、患者さんの負担を軽減します。

脳神経血管内治療とは

 脳神経血管内治療とは、カテーテルとよばれる細い管を使い、脳動脈瘤、頸動脈狭窄症、脳梗塞(脳主幹動脈閉塞)、頭蓋内動脈狭窄症、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻などの脳や首、脊髄の血管疾患を、切らずに治す新しい治療法です。
 X線透視(レントゲン)で観察しながら、血管の中にカテーテル(直径が約0.5mmから約3mm)を、鼠径部(足の付け根)や肘の動脈から挿入して治療をおこないます。クリッピング術や頸動脈内膜剥離術などの外科手術と異なり、開頭や切開が不要のため患者さんの負担が少なく、手術時間も従来の外科手術よりも短縮できます。
奥村栄太郎
 開頭手術の場合、脳組織、脳神経や脳血管を損傷せぬよう細心の注意を払って手術しますが、それでも脳深部にある血管の治療は、脳の損傷が起こりやすくなります。その一方、血管の中からアプローチする脳神経血管内治療は、脳の直接的な損傷を起こさず治療が行えます。
近年、脳神経血管内治療は全国的に治療数が増加していますが、治療には特殊な機器と特別な技術が要するため、専門の施設で行われる必要があり、また専門のトレーニングを積んだ脳神経血管内治療専門医が治療をおこなうことが前提となります。

代表的な脳血管内治療について

① 脳梗塞に対する血栓回収術
発症から4.5時間以内の急性期脳梗塞は、基本的にTPAと呼ばれる急速に血栓を溶解させる点滴投与がおこなわれます。この治療により、脳の血管を閉塞させてしまった血栓を溶かし、血流が再開出来れば良いのですが、中には点滴治療だけでは血流が再開しない方もいます。この場合、カテーテルを用いて血栓を除去する血栓回収術を行わなければなりません。一般的には脳梗塞を発症してから6時間以内が治療適応とされていますが、条件を満たせば最大で24時間以内でも血栓回収術を行う場合があります。


② 脳動脈瘤に対するコイル塞栓術
脳動脈瘤とは、脳の動脈壁の一部に血液が入り込みコブのような形状になります。脳動脈瘤の原因は解明されていませんが、高血圧や喫煙、遺伝などが関連していると考えられています。未破裂脳動脈瘤のほとんどは無症状で、脳ドックや検査で偶然に見つかるケースほとんどです。しかしながら、一旦、脳動脈瘤が破裂するとくも膜下出血を引き起こします。これを予防する脳神経血管内治療がコイル塞栓術です。
コイル塞栓術は、主に、足の付け根から直径0.4mm程度のマイクロカテーテルを、X線透視しながら脳動脈瘤の中に到達させ、瘤の中にプラチナ製のコイルを詰めます。これにより動脈瘤内に血液が流れ込むのを防ぎます。コイル塞栓術は、破裂する前の予防手術と、破裂した動脈瘤の再破裂を防ぐ手術の、2つの予防手術があります。

③ 頚動脈狭窄症に対する頚動脈ステント留置術
年齢を重ねると動脈硬化が進行します。高血圧、高コレステロール血症、糖尿病などがあると更に動脈硬化は進みやすくなり、徐々に血管が狭くなってきます。動脈硬化が首の動脈に起こると、これが脳梗塞の原因の一つとなりうる頚動脈狭窄症と診断されます。
この狭窄の程度が進んでいる方は、脳梗塞を予防するために、脳神経血管内治療の一つである頸動脈ステント術が検討されます。この手術は、主に、足の付け根から直径1.0mm程度のカテーテルを入れて、頸動脈まで到達させます。狭窄部をバルーンを用いて広げ、さらに金属のステントを留置して拡張を維持し、狭窄を改善させます。この治療は全身麻酔ではなく、局所麻酔での治療も可能であり、高齢者や他にご病気のある方にも負担を軽減しておこなうことができます。また、術後の安静期間や入院期間が短いのも特長です。